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ハンス・ホッターのこと | ハンス・ホッターのレコード | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ワーグナー歌い(!)について話を始めるなら、まずハンス・ホッターから♪ 私にとってはホッターこそがヴォータン!ヴォータンはホッター!あの声!一声響くだけで、神々しい、この世のものならぬ、暗く、高貴で、暖かく、厳しく、孤高の・・・・。 ハンス・ホッターのヴォータンを聴くなら、まずは(昔はこれしか無かったし)ショルティの「ワルキューレ」となり、事実それを聴いて、感激していたんだけれど、時折目にすることのできた海外の批評は、このヴォータンについて、案外、冷淡なものが多かった。もはや手許にスクラップすらとってないので、あやふやな記憶になってしまいますが、曰く「痛々しい」「不安定」「衰えている」・・・・。確かに声は暗く重いけれど、これほど素晴らしい歌唱のどこに文句があるのか?・・・、と不満に思ったものでした。 それから幾年かたって、バイロイト実況録音のホッターのヴォータン、クナの指揮が発売され、ついにそれを聴いたときに、やっとわかったような気がしました。全盛期のホッターの威力!威力という言葉は「威」と「力」が組み合わさっているけれど、ショルティとのDECCA盤では翳りが強かったが、全盛期のホッターの「威」力は凄まじいものがあった。慈愛の眼差しで娘を眠りにつかせる父親であるより、世界をその槍の力で支配しようとする強烈な意志を持つ神々の主神。聞き所の第2幕、幕切れの"Geh hin, Knecht! Knie vor Fricka:"〜 "Geh!"臓腑をえぐるような哀しみに押しつぶされそうになる己を、必死で支えるために怒りを糧に立ち去ろうとする、この"Geh!"のソット・ヴォーチェがクレッシェンド(?)する瞬間の恐怖!肌に粟が生じるとはまさにこの瞬間です。 かつてショルティの「ワルキューレ」が発売された頃、それを批評した人々は、オペラ・ハウスで、この全盛期のホッターをその耳と目に焼き付けていたんだろうな、それ故レコードでの評価が、不当に辛いものになっていたんだろうなと、少し納得できたような気がしました。 「パルジファル」で、グルネマンツを歌うホッター、これもまた、言い様も無く素晴らしいものです。以前にもどこかで書きましたが、第3幕、黒ずくめの騎士が槍に祈りを捧げるとき、これが聖槍で、この騎士がパルジファルであることに気づいたときの、"Der Speer, ich kenne ihn. O! Heiligster Tag,・・・"、それからひとくさりあって、"O Gnade! Hochstes Heil!"の狂悦、エクスタシー、それが次の" O! Wunder! Heilig herhstes Wunder!"には悔悟の情念が顕れるのです。語りながら歌い、歌いながら語る、カンマーゼンガーの芸がここでのグルネマンツでほど感得される例を他に知りません。 その他のホッターの演唱で、是非とも聴いてみたいのがアンフォルタスとオランダ人です。アンフォルタスは54年のバイロイト盤が日本KINGから粗悪な音質で発売されましたが、もっといい音で聴きたいものです。またオランダ人は戦争中のミュンヘンの録音がありますが、戦後の録音で聴いてみたいと思います。 ところで、私にとって神にも等しいホッターでありますが、世評の高いザックスだけは、ちょっと、苦手です。最初に「マイスタージンガー」に出演するホッターを聴いたのはカイルベルトの指揮によるバイエルン国立歌劇場の再開記念公演の実況盤で、ポーグナーを歌ったものでした。ザックスの名演がしばしば話題に上るホッターですが、実際には彼はこの役を早々とレパートリーから外しています。ホッター曰く、ザックスの難しさは、その高い音域では無く、広すぎる音域にある。ザックスを降りた後、ホッターはポーグナーを歌うようになり、その時期の録音が、ここであげたレコードなのです。ところで、そのポーグナーですが、マイスタージンガーのお歴々の中で、ホッターが一声発すると、どうしてもヴァルハラに棲む神々の一族かモンサルヴァートの住人に思えてしまって、おおよそニュルンベルグの親方連の一人とは思えないのです。神様が市井の人々の集まりに迷い込んだような違和感を感じてしまって、しっくり来ないのです。この違和感は、ホッターがザックスを歌っているものを聴いても、まったく同じで、私にとってのホッターは、やはり天の上の存在なのです。(^^;; |
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