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 レコードのこと 
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非正規盤の至り海賊版のこと
 このようなディスコグラフィを作っておいて、こんなことを言うのも無責任な話と、おしかりを受けるかも知れませんが、私は一般の音楽愛好家が、正規の手続きを経ないで、どこかの誰かが何らかの手で入手した音源を基にして発売したレコード(CD)を買って聴くことを、お勧めしません。

 私自身の過去を顧みれば、様々な批評や文書を目にするうちに、何年何月のどこそこでの誰それの演奏について、さぞ素晴らしかったという文言を目にすると、止められなくなって、その演奏の聴ける非正規盤を買って聴いてみて、その出来に一喜一憂してきたけれど、そうして集めたレコードを、その後、何年か時間がたって、いったい何回聴いただろう、どれほど、その演奏を享受しただろうと振り返ると、ずいぶん無駄な投資をしてきたと、寒々とした気持ちになるのです。
 巷では、大手のレコード店でもネット上でも、こうした非正規盤を聴かねば何か大切なモノを聞き逃してしまうかのような物言いが横行しています。そうしたなか、これからワーグナーの音楽に触れていこうとなさっている方が、そのような物言いを真に受けて、出所不明の怪しげな海賊版で粗悪な音質のCDを、しかもワーグナーのオペラとなれば決して小さくない金額を費やしていかれるのを目にすると、いたたまれない気持ちになるのです。

 ここで私が正規盤と呼ぶものは、音源の所有者から正規の手続きを経て、その音源を取得したものということで、実況録音ならば、その録音を制作し、保管している団体なり個人(というのはあり得ませんけれど)から取得するということで、ありていに言えば、放送局から購入したものということです。非正規盤とは、そういう手続きを経ないで音源を取得し販売されているレコード(CD)のことで、個人がエアチェック(ラジオ放送などを録音)したものや、なんらかの形で放送局やレコード会社から流出した音源を取得した場合、さらには、他のレコードからの盤起こししたというものもあります。ようするに、海賊盤です。

 書いてる自分が、だんだんまどろっこしくなってきたので、乱暴な物言いになってしまうことをお許し下さい。

 買ってもいい歴史的録音と、買ってはいけない非正規盤の境をどこに見いだすかというのは、それなりの盤道楽をした上で無ければ見分けられないほど、大手のCD店頭には同じように正規盤と非正規盤が並んでいます。
 いや、そればかりか、著作権の保護を訴える文言を自らのレーベルに印刷しながら、そのレーベルに刻まれた音源の取得には、著作権を無視した方法に頼ったモノを販売しているという、グロテスクな商品まであります。かつて日本コロンビアが販売していたカナダ・ROCOCO原盤、米国ブルーノ・ワルター協会原盤を謳った一連の歴史的録音シリーズがそれです。後に、日本コロンビアはこのようなレーベルの販売を止めますが、ところが日本KINGがそれを引き継ぎました。
 日本KINGの一連のフルトヴェングラー、クナッパーツブッシュ、シューリヒトらの「芸術」シリーズで、Music&Arts原盤(これは、かつて米国ブルーノ・ワルター協会、リサイタル・レコード、北米フルトヴェングラー協会等々の名を謳っていた団体が、CD時代になって改称したもの)、DiscosMilanoだとかArkadiaだとかを原盤とするモノは海賊盤です。加えて、ミュンヘン・ハンス・クナッパーツブッシュ協会原盤というモノも、やはり、海賊盤です。フランス・フルトヴェングラー協会、ドイツ・フルトヴェングラー協会は正規の手続きを経て入手した音源を頒布していますので、混同しそうになりますが、ミュンヘン・ハンス・クナッパーツブッシュ協会の音源は、正規の手続きを経て入手されたモノではありません。

 看板を背負ったレコード会社が、歴史的録音を公に販売していく意義を認めるなら、その音源の所有者と、ちゃんと契約をして、まともな音源を入手して、しかるべく発売して頂きたいと思います。

 私は道義的側面、著作権に基づき、これらの非正規盤に反対する者ではありません。なんとなれば、実際にやってみればわかることでしょうが、ワーグナーの歴史的録音を個人で海賊盤を作ったところで、それにかかる費用、手間、時間、そして販路の獲得など、すべて考えるとおおよそわりに合わない、儲けの出ない作業です。かつての海賊盤制作者たちは、自身の音楽や音楽家へ傾ける愛情が、海賊盤製造へと向かわせたもので、そのように制作された海賊盤を手にするとき、制作者の気持ちが伝わってくるような気がして、今でも大事に手許に遺しているものもあります。そのようにして流布した海賊盤を、表で看板を出している、まともな顔をしたレーベルが発売し、事情を知る由のない一般愛好家が、ひどい音源を買わされてしまうという現状を憂い、また、憤っているのです。

 新潮社が発売したマゼールの指環も海賊盤です。音質もひどい50年代モノラル録音並というものでした。
 GOLDENMELODRAMも海賊盤です。個人が保存していたテープからの復刻が大半ですから、音質はまちまちです。
 HUNT、ARKADIA、MUSIC&ARTS、ARLECHINO、LAUDIS、CETRA、MELODRAM、MYTO、DANTE、GALA、みんな海賊盤です。

 ORFEO、PREISER、ARCHIPHON、TAHRA、これらのレーベルは正規盤です。個々に音質の良いものも悪いものもあるでしょうが、各々が最善の努力をしたところでの結果であれば、諦めるしかありません。

 私は、これからも海賊盤と知りながら、それでもこれらの珍しい音源に惹かれ、買ってしまうことでしょう。一喜一憂、時には怒り狂うかも知れません。それは私自身が覚悟してやっていることですから、これは、しょうがありません。誰に文句を言える筋合いのことでは無いでしょう。(誰かに非難されるかも知れませんけど。)けれども、これからワーグナーに親しもうと考えていらっしゃるふつうの音楽愛好家の皆様におかれては、まず、正規音源を入手し発売している正規盤を購入なさることをお勧めします。それらを十分に楽しみ尽くした後に、様々なレコードすなわち非正規盤を探索なさるなり、収集なさるのに、口出しすることはできません。いっしょに、地獄までお供させて頂きます。(^^;;

 くどいようですが、最後にもう一度、まとめさせていただきます。
 例をあげると、クナッパーツブッシュの「パルジファル」を聴こうとするなら、まずPHILIPSのCDを、次にTELDECのCDを買いましょう。その他の各種海賊盤を買うのは、誰かの家で聴かせてもらった上で、音質と演奏に納得した上で、それから買いましょう。最初からGOLDENMELODRAMのCDを買うのはよしましょう。と、こういうことです。